田中 礼人 たなか あやと

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卓球選手をサポートすることになったきっかけは?

 前職であったウイダートレーニングラボ(森永製菓株式会社)に所属していた際、公益財団法人日本卓球協会(以下、卓球協会)からサポートの依頼がありました。社内で推薦していただき、それをお引受けすることになったのがきっかけです。その後、ウイダートレーニングラボを退社し日本卓球協会の専属となりました。もともとは、男子チーム前監督の宮ア義仁氏がフィジカル強化のため、トレーニングに関する専門家を常時置きたいという意向をお持ちで、それが実現した形となりました。

卓球競技は筋力・敏捷性・持久力

 ウイダートレーニングラボ所属時には、様々な競技の選手をサポートさせていただいていましたが、卓球選手については初めてでした。卓球競技のコンディショニングに関する文献はほとんどありませんでしたので、過去に開催された大会のVTRを見たり、監督・コーチの皆さんからお話をおうかがいするなどして情報を集めました。実際にプレーしているところを拝見し、卓球選手は強い球を打つための筋力や、左右に素早く動くための敏捷性が必須であり、また1日に5〜6試合をこなす場合もありますから、そのための持久力も必要だと感じました。特に男子選手は動く幅が大きいので、こんなにも激しく動いているのかと意外でした。また、球を打ちながらも先々を考えて動きますので、戦略や勝負勘も非常に大切な能力だと思いました。
 こうした情報を得るにあたっては、スポーツ医科学委員の先生方からお話を聞いたり、データを頂戴したりしましたので非常に助かりました。

NSCAの資格認定やその知識が現場にどのようにプラスとなっていますか?

 まず、卓球協会のコンディショニング部門で20年近く活躍されている米澤氏も私も、NSCAの資格認定者ですので、共通認識のもとでプログラムの内容等についてスムーズにやりとりできます。サポートの依頼があり、私が携わることができたのは、資格認定者であったことが一つのポイントとしてあると思います。また、私は卓球競技に携わるのは初めてでしたが、選手や競技自体の情報(ニーズ)を分析すること、これとチームの方針を照らし合わせてプログラムやサポート内容を構築するプロセスは、学んだことが生かされています。

現在の卓球ナショナルチームへのサポート内容は?

 私の役割は、それぞれの競技練習・試合前にウォーミングアップを、練習・試合後にクールダウンを指導すること、それからトレーニング指導を行なうことです。

 トレーニング指導としては、ウェイトトレーニング、スピードトレーニング、プライオメトリックス、アジリティトレーニング、インターバル走などから時宜に応じてチョイスします。また、積極的休息の日にはプールを泳いだり外を走ったりします。これらのメニューは、米澤氏と共通の認識をもって管理しています。定期的に測定評価も行ない、この結果をトレーニングプログラムに反映しています。

 次に試合時のサポートですが、遠征などで海外に行く機会が多く、現地でできることは多くありません。数日の間に時差調整をしたり軽くトレーニングや練習を行なってコンディションを整えます。試合当日は基本的に選手ごとでスケジュールが異なりますから、ウォーミングアップやクールダウンおよびトレーニングなどを各自で実施します。そのため、選手への教育により自立を促すことが重要です。

けがの予防は最も大切な要素

 このようなサポートさせていただいてから、体力向上はもちろんのこと、卓球競技に多い肩や腰の障害が減りました。その点は大きく評価いただいています。卓球競技は特に技術の進化が非常に早く、けがをしてブランクを生じると追いついていくだけでもやっとという状態になってしまいます。そういう意味でも、けがの予防は最も大切な要素です。

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選手の現在のコンディションについてお話しください。

体調面での不安は無し

 オリンピックに向けてスタッフともども一致団結している状態で、非常に良い雰囲気だと思います。選手個人のコンディションも良いですね。フィジカル要素についても3年前から比べるとよく向上できたと思います。体調面での不安は特にありません。
 個人に関して言えば、例えば水谷選手は試合のために世界を飛び回っていますから、ときには思うようにトレーニングが積めないこともあります。実際、遠征続きのときには成績が停滞する傾向にありました。そこで遠征先でも最低限できることや、コンディショニングの基本や大切さを見直してもらったところ、先日のジャパンオープン(神戸)では優勝することができました。慣れた環境で調整できたというのももちろん大きいと思いますが、コンディショニングの重要性を再認識できたのではないかと思います。これはほかの選手にも言えることです。
 現在(6月中旬時点)は最終の合宿に入っており、出発日までしっかりコンディショニングを整えていけるように取り組んでいます。7月20日の深夜に日本を出発し、一度ドイツに降り立って時差調整などを行なった後、ロンドンへ渡ります。代表選手のうち、丹羽選手以外はオリンピック出場経験者ですので、当日の調整法などは理解しているはずです。

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チームや選手のアピールをお願いします。

 私は基本的に男子選手を中心にサポートしていますので、3名の代表選手についてコメントさせていただきます。
 まず水谷選手は前後左右への鋭くダイナミックな動きが持ち味ですから、このあたりに注目してご覧いただけると良いと思います。また、ラリーにも強いので見ごたえがあると思います。
 次に岸川選手ですが、特段フィジカルが強いというわけではありませんが、身体の使い方がうまく、とても器用です。ラケットさばきなどに注目していただけると良いと思います。なかなか画面から見る限りではそのすごさが伝わりにくいかもしれませんが、台上での駆け引きや巧みな球さばきは素晴らしいです。
 そして今回初めて五輪に出場することになった丹羽選手ですが、以前開催されたロンドン五輪の団体予選にあたるアジア大陸予選の際に、世界ランク1位の中国選手に勝利しています。とても大きな可能性を秘めた選手だと思います。台にくっつくようにして前線で戦うスタイルが特徴的ですね。

最大のライバルは中国

 3名ともスタイルが異なってそれぞれ持ち味がありますので、興味深く見ていただけると思います。もちろんどの国もライバルですが、やはり最大は中国です。卓球協会の分析班の方々が情報を収集し、選手や監督・コーチと共有して対策を考えています。それらすべてが功を奏すように祈っていますし、最後までしっかりサポートしたいと思います。  米澤さんからもありましたが、今年、育成プロジェクトが開始されてから10年と節目の年を迎えています。特に水谷選手や岸川選手はドイツへ渡って武者修行をするなど、たくさんの経験を積んできています。私自身はまだ2年とちょっとしかかかわっておりませんが、これまで他のスタッフの方々や選手が積み上げてきたものを少しでも後押しできるようにがんばりたいです。


インタビュー:2012年6月28日